ふと気がつくと口が開いている。朝起きると口の中や喉が乾いている。そんな経験はありませんか?
普段は意識することが少ない「呼吸」ですが、口の周りや舌の筋肉の使い方は、口を閉じる力や呼吸の仕方とも関係しています。
そこで今回は、みらいクリニック院長・今井一彰医師が考案した「あいうべ体操」についてご紹介します。
特別な道具を使わず、「あ・い・う・べ」と口や舌を大きく動かすシンプルな体操です。
「あいうべ体操って何?」「どんな目的で行うの?」という疑問も含めて、現在の研究も交えながら見ていきましょう。
「あいうべ体操」とは?
「あいうべ体操」は、福岡市のみらいクリニック院長・今井一彰医師が考案した、口や舌の筋肉を動かす体操です。
今井医師は、口呼吸から鼻呼吸へと意識を変えていくためのセルフケアとして「あいうべ体操」を紹介しています。
みらいクリニックによると、今井医師がこの方法を開発したのは2005年頃。
道具を必要とせず、日常生活の中で取り入れやすい方法として考案されました。現在では日本歯科医師会のWebサイトでも、口の周囲や舌の筋肉を保つためのトレーニングの一つとして「あいうべ体操」が紹介されています。
あいうべ体操の方法は?
方法はとてもシンプルです。
①「あ」
口を縦方向に大きく開きます。
普段の会話より少し大げさなくらい、ゆっくり口を開いてみましょう。
②「い」
口角を左右に大きく広げます。
頬や口の周りが動いていることを意識します。
③「う」
唇を前へ突き出します。
口をすぼめるようなイメージです。
④「べ」
舌を口の外へ大きく出します。
無理のない範囲で、舌を前から下方向へ伸ばします。
この
「あ → い → う → べ」
までを1セットとして繰り返します。


出典:みらいクリニック『あいうべ体操』
みらいクリニックでは1日30セット程度を目安として紹介しており、日本歯科医師会でも10回×1日3セットという方法が紹介されています。口や舌をしっかり動かすことと、無理なく継続することが大切です。
なぜ「べー」と舌を出すの?
「あ・い・う」までは分かるけれど、「なぜ最後だけ『べ』なの?」と思う方もいるかもしれません。
ポイントの一つが舌の運動です。
舌は食べたり話したりするだけではなく、口腔機能を支える大切な筋肉の集まりです。
「あいうべ体操」は、唇だけではなく舌もしっかり動かす構成になっています。
つまり、「あ・い・う」で口の周囲を大きく動かし、「べ」で舌を大きく動かす。
口元全体を使うことを意識した体操と考えると分かりやすいでしょう。
あいうべ体操と唾液の関係
「あいうべ体操」は口の周りだけでなく、舌を大きく動かします。舌や頬、口腔周囲の筋肉を動かすことは唾液腺への刺激にもつながるため、口の中が乾きやすい人にとって、唾液分泌を促すきっかけになる可能性があります。
唾液は、単に口の中を潤しているだけではありません。実は、私たちの口腔環境を守るために、いくつもの大切な働きをしています。
- 消化作用:唾液に含まれる酵素が、食物のでんぷんを分解し、て消化を助けます。
- 自浄・洗浄作用:口の中の食べかすや細菌を洗い流し、虫歯や口臭の予防に役立ちます。
- 緩衝作用:食事によって酸性に傾いた口の中を中性に近づけ、歯が酸によって溶けるのを防ぐ働きがあります。
- 再石灰化作用:唾液に含まれるカルシウムやリンなどが、溶けかけた歯の表面を修復するのを助けます。
- 粘膜保護・潤滑作用:ムチンなどの成分が口の中の粘膜を覆い、乾燥や刺激から守ります。また、食べ物を飲み込みやすくする役割もあります。
- 抗菌・免疫作用:唾液に含まれるさまざまな成分が、細菌などの増殖を抑え、口腔内の防御機能を支え、体内に侵入しようとする細菌の繁殖を阻害する重要な役割も担っています。
- 溶解・味覚作用:食べ物の味成分を溶かして舌の味蕾に届けることで、味を感じやすくします。
口呼吸が続くと口の中の水分が蒸発しやすくなり、乾燥を感じやすくなります。
そのため、「あいうべ体操」をきっかけに口を閉じることや鼻呼吸を意識することは、口腔内の乾燥を防ぎ、唾液が働きやすい環境を保つという意味でも大切と考えられます。
特に年齢を重ねると、加齢や薬の影響、水分不足などによって口の乾きを感じる人も増えてきます。
唾液は「消化を助ける」「菌の繁殖を抑える」「歯を守る」「粘膜を守る」「味わう」「飲み込む」といった、日常のさまざまな機能を支える重要な存在です。
ただし、「あいうべ体操をすれば必ず唾液量が増える」「ドライマウスが改善する」と断定することはできません。
口の渇きには多くの原因があるため、強い乾燥が続く場合は歯科や医療機関への相談が必要です。
「口が開いている状態」と口腔機能
何もしていないときに口がぽかんと開いてしまう状態は、歯科領域では口唇閉鎖不全などと呼ばれます。
特に子どもを対象とした研究では、口を閉じる力が弱いことと、口元や歯並びなどとの関係が研究されています。
鹿児島大学などの研究グループは、日本の3〜12歳の子どもを対象とした過去の調査で、約30.7%に「お口ぽかん」が認められたと報告しています。
口を自然に閉じられることは、単純に見た目だけの問題ではありません。
口腔内の乾燥を防いだり、食べる・話す・呼吸するといった口の機能を保ったりするうえでも重要と考えられています。
あいうべ体操の研究について
口唇閉鎖力など口腔機能については研究が行われています。
鹿児島大学病院小児歯科などの研究グループは、3〜4歳の幼児123名に1年間「あいうべ体操」を行ってもらい、過去の対照群123名と比較しました。
その結果、両群とも成長に伴って口を閉じる力は強くなったものの、体操を行ったグループのほうが口唇閉鎖力の増加量が大きかったと報告されています。
口元の形についても、一部でより引き締まる方向への変化が確認されました。研究グループは、「お口ぽかん」に対する方法の一つとして有用である可能性を示しています。
ただし、この研究は主に幼児を対象としたものです。
そのため、「大人でも同じ程度の効果がある」「さまざまな病気を改善できる」
とまで結論づけることはできていません。今後さらに研究が蓄積されていくことが期待されます。
大人にとっても「口を動かす」ことは大切
年齢を重ねると、足腰だけでなく口の機能も少しずつ変化します。
最近では、噛む、飲み込む、話す、唾液を出す、舌や唇を動かす、といった口腔機能の衰えを早い段階から意識する「オーラルフレイル」という考え方も知られるようになってきました。
日本歯科医師会でも、口の周囲や舌の筋力を保つためのセルフケアとして「あいうべ体操」が紹介されています。
歯磨きや歯科検診だけでなく、「口をよく動かすこと」も、意識したい習慣の一つなのかもしれません。
「あいうべ体操をすれば鼻呼吸になる」とは限らない
口呼吸には、単なる習慣だけではなく、鼻炎や鼻づまり、鼻中隔など鼻の構造、扁桃やアデノイド、歯並びや顎の形態など、さまざまな要因が関係する場合があります。
そのため、鼻が物理的に通りにくい状態で「あいうべ体操だけで治そう」とするのは適切ではありません。
鹿児島大学の研究紹介でも、鼻づまりや大きな歯列異常などがある場合には、それらを考慮した対応が必要とされています。
慢性的な鼻づまりや強いいびき、睡眠中の呼吸異常などがある場合は、耳鼻咽喉科・歯科などの医療機関に相談しましょう。
「食後の習慣」にするのも一つ
セルフケアは、一度だけ頑張るよりも生活の中に組み込む方が続けやすくなります。
例えば、朝食後に10回、昼食後に10回、夕食後に10回、というように食事とセットにしてしまえば、忘れにくくなります。
テレビを見ながら、お風呂に入る前など、自分が毎日必ず行う習慣と組み合わせてもよいでしょう。
ただし、大きく口を動かす体操ですので、顎関節に痛みがある場合などは無理をしないことも大切です。
「あいうべ体操」で病気は治る?
インターネットで「あいうべ体操」を検索すると、「免疫力」「花粉症」「アトピー」「インフルエンザ」「自律神経」など、さまざまな言葉が出てくることがあります。
考案者の今井医師も、口呼吸とさまざまな健康状態との関係について長年情報を発信しています。
一方、口唇閉鎖力など、口腔機能そのものについては研究結果が報告されています。
健康情報を見るときは、「研究で確認されていること」と「考案者が臨床経験などから提唱していること」を分けて考えることが大切です。
このブログでも、その違いを大切にしながら健康情報を紹介していきたいと思います。
まとめ|まずは自分の「呼吸」と「口元」を意識してみよう
「あいうべ体操」は、みらいクリニック院長の今井一彰医師が考案した、口や舌を大きく動かすシンプルな体操です。
特別な器具も必要なく、自宅で気軽に取り入れられることが大きな特徴です。
特に興味深いのは、単なる健康法として紹介されているだけでなく、子どもの口唇閉鎖力などについて実際に研究が行われていることです。
とはいえ、「あいうべ体操をすれば病気にならない」と考えるのではなく、
口や舌をよく動かし、自分の呼吸や口腔機能を見直すきっかけとなるセルフケア、として取り入れることをお薦めします。
普段、何気なくしている呼吸ですが、まずは今日、自分が鼻から呼吸しているのか、口が開いていないかをチェックしてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考情報
・みらいクリニック「あいうべ体操」
・みらいクリニック 今井一彰院長紹介
・日本歯科医師会「セルフケアのオススメ カンタン!楽しい!お口のトレーニング」
・鹿児島大学「子どもの“お口ぽかん”に対するお口の体操の効果を明らかに」
・Inada E, et al. Lip and facial training improves lip-closing strength and facial morphology.
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療を目的とするものではありません。症状がある場合や、鼻呼吸がしにくい状態が続く場合は、医師・歯科医師などの専門家にご相談ください。
